
眼瞼下垂は、瞼が十分に開かず、黒目の一部が覆われてしまう疾患で、特に40代以降の中高年に多く見られます。原因の多くは加齢によるものとされていますが、実は中学生といった思春期の若年層でも発症することがあります。
この疾患は自然に治ることはなく、放置すると悪化してしまうため、症状に応じた適切な治療を受けることが重要です。進行すると視界の妨げだけでなく、学業への集中力低下や心理的な影響といった問題にも繋がる可能性があります。
本ページでは、中学生における眼瞼下垂の原因や治療法、保険が適用されるかどうかなどについて、詳しくご紹介いたします。
眼瞼下垂とはどのような病気か
眼瞼下垂は、瞼の動きに異常が生じることで、目を開けても上瞼が十分に上がらず、瞳孔の一部が隠れてしまう状態を指します。比較的発症頻度の高い疾患です。
主な自覚症状としては、
- 瞼が重たく感じて目を開けるのが億劫になる
- 上方の視界が瞼で遮られ、見えづらくなる
- 頭上の物に気づきにくくなり、頭をぶつけやすくなる
といったものがあります。
さらに、視界を確保しようとして無意識に顔を上げて生活するようになるため、肩こりや頭痛が起こりやすくなるほか、自律神経の乱れによって、
- 晴れた日に外出すると強いまぶしさを感じてサングラスが手放せなくなる
- 気分が落ち込みやすくなる
といった随伴症状が現れることもあります。
眼瞼下垂の主な症状
眼瞼下垂を発症すると、多くの方に以下のような身体的な変化が見られるようになります。特に50代以降では症状が明確に現れることが多いため、気になる場合は一度確認してみましょう。
身体的な自覚症状
- 瞼が重たく感じる
- 目を開けるのに意識的な力が必要になる
- 上瞼が黒目の端にかかっている
- 視野が狭まり、物が見えにくくなる
- 肩こりや頭痛、眼精疲労などの不調が続いている
外見上の変化
- 瞼が下がることで実年齢よりも老けて見られる
- 「目つきが鋭い」「怒って見える」などと言われることがある
- 写真に写ると「眠たそうな表情」に見られやすい
- 眉間に横ジワができやすくなった
- 視界を確保するために、無意識に眉毛や顎を上げてしまう
このように、眼瞼下垂は視界の不良だけでなく、慢性的な肩こり・頭痛・目の疲れといった日常生活への影響も引き起こします。これらの症状に心当たりがある場合は、早めの受診をお勧めします。
中学生に見られる眼瞼下垂の原因
眼瞼下垂は大きく「先天性」と「後天性」に分類されます。
先天性眼瞼下垂は、生まれつき瞼を持ち上げる筋力が弱く、上瞼が十分に開かない状態です。一方で、後天性眼瞼下垂は、正常に開いていた瞼が時間の経過や特定の要因によって徐々に、または急激に下がってくるものを指します。
中学生でこの症状が現れている場合、多くは先天性の眼瞼下垂であることが考えられます。ただし、スマートフォンやタブレットの過度な使用、強い刺激を受けるなどの影響で、正常だった瞼が下がり後天的に症状が出現する可能性もあるため注意が必要です。
先天性眼瞼下垂の原因
生まれつき瞼が下がっている「先天性眼瞼下垂」は、出生時または生後1年以内に発見されることが多く、その約9割は眼瞼挙筋(がんけんきょきん)の発育不全が原因とされています。
また、それ以外にも以下のような要因が関与していることがあります。
- 目の動きを司る動眼神経の異常
- 他の眼の病気
- 全身性の疾患
このように、先天性眼瞼下垂は筋肉・神経・他疾患との関連を幅広く考慮する必要があります。
眼瞼挙筋の発育不全
瞼を引き上げる役割を担う主な筋肉が「眼瞼挙筋」です。
この筋肉が生まれつき未発達であったり、筋力が極端に弱い状態であると、瞼が正常に開かず、眼瞼下垂が生じます。
こうしたタイプは「単純性眼瞼下垂」と呼ばれ、特に片方の目だけに症状が現れる片眼性(へんがんせい)が約8割を占めます。
眼瞼挙筋の発育不全は、胎児期の成長過程で何らかの障害が起こった可能性があると考えられていますが、現在のところ明確な原因は分かっていません。
動眼神経の発達異常
動眼神経は、目の動きを制御し、瞳孔の大きさを調整するなど重要な役割を担う神経です。この神経に異常があると、瞼をうまく上げられなくなるだけでなく、目の動きが制限されることもあります。
こうした障害は脳腫瘍や頭部外傷による後天性のケースが多いですが、生まれつき動眼神経がうまく機能しないこともあり、先天性の眼瞼下垂の原因となります。
その他の疾患に伴う眼瞼下垂
以下のような疾患が原因となって、先天性の眼瞼下垂が生じることもあります。
| 関連疾患 | 特徴 |
| 重症筋無力症 | 筋力が低下しやすく、疲労しやすい状態が続く。 |
| 眼瞼裂狭小症候群(がんけんれつきょうしょうしょうこうぐん) | 瞼の開きが狭く、目が離れて見えることがある。 |
| マーカスガン顎関節症 | 口を開ける動作に連動して、瞼が勝手に上がる。 |
| ホルネル症候群 | 顔の片側で瞼が下がり、瞳孔が縮小。発汗も減少する。 |
後天性眼瞼下垂の原因
後天性眼瞼下垂とは、本来は正常に開いていた瞼が、加齢や外的な刺激によって徐々に下がってくる状態を指します。
その原因の多くは年齢による変化であり、長い年月をかけて「挙筋腱膜」という瞼の筋肉の付着部が緩んでいくことが主な要因です。
発症の傾向としては、女性では40歳以降、男性では50歳以降に多く見られ、10代で発症する例は稀とされています。
しかし、近年では中学生を含む若年層にも後天性の眼瞼下垂が見られるようになっており、その背景にはスマートフォンの長時間使用や瞼への物理的な刺激が関係していると考えられています。
目に負担をかけない生活を心がけることが、予防の第一歩です。
スマートフォンの長時間使用
中学生における後天性眼瞼下垂の最大のリスク要因は、スマートフォンの長時間使用です。
総務省「令和4年版情報通信白書」によると、2021年の10代のインターネット利用時間は、平日で約191分(3時間超)、休日では約254分(4時間超)とされており、全年代の中でも最も長い傾向にあります。
その主な利用端末はスマートフォンであり、画面の小ささや文字の細かさが目の筋肉や神経に過度な負担をかけてしまいます。
また、スマートフォン・タブレット・ゲーム機器などが発するブルーライトは、ドライアイの原因にもなります。ドライアイになると、まばたきのたびに眼球と瞼の間に摩擦が生じ、瞼の筋肉や皮膚が傷つきやすくなるのです。
こうしたダメージが蓄積することで、年齢に関係なく、中学生でも後天性眼瞼下垂を発症する可能性があるとされています。
日常的にスマートフォンを使用する時間や距離、明るさなどを意識し、目に優しい生活習慣を見直すことが大切です。
精神的ストレスによる影響
学校での友人関係や成績、部活動など、中学生は多くの精神的負荷を抱えがちです。
こうしたストレスは自律神経に悪影響を及ぼし、瞼を支える筋肉に無意識のうちに緊張や負担をかけてしまいます。その結果、筋肉が疲弊し、眼瞼下垂の発症に繋がることがあります。
睡眠不足と自律神経の乱れ
勉強やクラブ活動に追われ、慢性的な睡眠不足に陥りやすいのもこの時期の特徴です。
十分な睡眠が取れない状態が続くと、体内リズムが崩れ、自律神経のバランスが乱れます。特に瞼の動きに関与するミュラー筋の働きが弱まることで、瞼が下がりやすくなり、眼瞼下垂の進行を招く恐れがあります。
花粉症やアトピーによる目元への刺激
花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患により、目の周りにかゆみが出ると、つい無意識に目を擦ってしまいがちです。
しかし、瞼に繰り返し摩擦が加わると、皮膚や筋肉が傷つき、眼瞼下垂のリスクが高まります。
日頃から目元に触れる回数を減らすことが、予防に繋がります。
コンタクトレンズの長時間使用
特にハードコンタクトレンズを長期間にわたって使用している場合、まばたきによる摩擦によって、瞼を持ち上げる「挙筋腱膜」が徐々に薄くなるとされています。
人は1日におよそ2万回まばたきをすると言われており、そのたびにわずかに摩擦が生じます。
そのため、長時間の装着や誤った使い方は、眼瞼下垂の誘因になり得ます。コンタクトレンズは、装着方法やケア方法を守って正しく使用しましょう。
眼瞼下垂がもたらす様々問題
眼瞼下垂は、単に見た目の変化に留まらず、日常生活や学業、さらには精神面にも大きな影響を与える疾患です。特に中学生においては、心身ともに敏感な時期であることから、早めの対応が非常に重要です。
以下に、眼瞼下垂によって生じやすい主な問題を紹介します。
視力の低下と学業への支障
瞼が下がることで視界が狭まり、物を見るために目を見開こうとする動作が無意識に増えていきます。
この状態が続くと、視力の低下や目の疲労感を引き起こし、次第に授業中の読書やノート取り、黒板の文字を見る際にも困難を感じるようになります。
結果として、学業への集中が妨げられ、学力低下の要因となる可能性があります。
目の痛みや眼精疲労
眼瞼下垂が進行すると、下がった瞼を持ち上げようとして周囲の筋肉が過剰に働くようになります。
この状態は目の周りに慢性的な痛みや違和感をもたらし、特に長時間の勉強やパソコン作業では眼精疲労がさらに悪化します。
疲労が蓄積すると、集中力や作業効率にも影響が出やすくなります。
思春期ならではの精神的ストレス
中学生は外見の変化に敏感な時期です。
瞼が垂れ下がっていることが気になり、「人と違う」と感じて自己肯定感が低下したり、「眠そう」「やる気がなさそう」といった誤解を受けて不安やストレスを抱えることがあります。
このような心理的負担は、対人関係や日常生活にも影響を及ぼす恐れがあります。
対人関係や社会的印象への影響
眼瞼下垂の影響で目を開けようとすると、無意識に額にしわを寄せたり、顎を上げて物を見る姿勢が癖になりやすくなります。
こうした仕草が積み重なると、周囲から「疲れている」「元気がなさそう」といった印象を持たれやすくなり、他者とのコミュニケーションに壁を感じる場面も増えるかもしれません。
さらに、外見への不安が高まることで、過度に人目を気にするようになり、自己表現を避ける傾向が強まる可能性もあります。
手術はいつ受けるべき?眼瞼下垂の治療時期について
先天性眼瞼下垂の治療においては、症状の程度や年齢、瞼の状態などを踏まえたうえで、適切な時期に手術を行うことが大切です。
視力への影響がある場合は3歳以降が目安
症状が軽度であれば、まずは経過観察を行いますが、瞼の下がりによって視界が遮られる場合や、視力の発達に悪影響を及ぼす可能性がある場合は、手術が必要となります。
子どもの視力は一般的に6~7歳頃までに完成するため、それまでに適切なタイミングで手術を行わないと、弱視のリスクが高まります。
そのため、視機能に配慮しながら、3歳以降に手術を検討するのが一般的とされています。
軽度または後天性の場合は14歳頃からが目安
一方で、軽度の先天性眼瞼下垂や、後天性眼瞼下垂の場合は、見た目のバランスや顔全体の成長を考慮し、思春期以降(14歳頃)まで待ってから手術を行うのが望ましいとされています。
顔の骨格や皮膚の発達がまだ途中の段階で手術を受けると、将来的に顔つきが変化し、再手術が必要になる可能性があるためです。
当院での対応と特別な考慮
当院では、瞼の状態や成長の程度を丁寧に診察した上で、ご本人および保護者の理解・希望を総合的に判断し、小学校高学年で手術を行うケースもあります。
また、幼児期の手術には全身麻酔が必要となるため、下記のようなリスクや制限も考慮する必要があります、
- 全身麻酔下では術中に瞼のデザイン確認ができない
- 麻酔は専門医の立ち会いが必須であり、設備の整った医療機関でしか対応できない
そのため、局所麻酔での手術が可能になり、本人自身がある程度内容を理解できる年齢(おおむね小学校高学年以降)まで待った方が、安心して治療を受けられることが多いのです。
眼瞼下垂の治療法について
眼瞼下垂の根本的な改善には、お薬や注射では効果が期待できないため、基本的に外科的手術が必要となります。
目元は見た目にも大きく影響するため、手術方法は医療機関や執刀医によって多様な技術が用いられています。
当院では、「見えづらさによって生活に支障がある」=機能的な問題を伴う眼瞼下垂に対し、保険適用の範囲内で手術を行っております。
以下は一般的に行われる主な術式をご紹介します。
挙筋前転術(きょきんぜんてんじゅつ)
この術式は、たるんでしまった腱膜や筋肉を前方に引き出し、瞼の骨(瞼板)に縫い付ける手術です。
上瞼の皮膚を切開し、腱膜の緩みを整えたうえで、糸でしっかりと固定します。これにより、上眼瞼挙筋の動きが直接瞼に伝わるようになり、自然に瞼が開くようになります。
※なお、当院では筋肉そのものに異常があるタイプ(筋原性)の眼瞼下垂には対応しておりません。診断の結果、専門的な治療が必要と判断された場合は、近隣の大学病院をご紹介いたします。
前頭筋吊り上げ術(ぜんとうきんつりあげじゅつ)
挙筋前転術では効果が得られない重度の眼瞼下垂に対して行われる術式です。
おでこの筋肉(前頭筋)と瞼を糸や大腿筋膜で連結することで、眉毛を上げる動作によって瞼を開くことができるようにします。
これは、瞼を持ち上げる筋肉の機能が大きく低下しているケースにおいて、代償的な筋肉を活用する方法です。
※こちらの手術も同様に、筋肉性の眼瞼下垂には対応しておりません。必要に応じて、専門性の高い医療機関へご紹介いたします。
余剰皮膚切除術(よじょうひふせつじょじゅつ)
この方法は、瞼の皮膚が加齢などで弛み、視界を妨げている場合に有効です。
皮膚の余剰部分を、上瞼の縁や眉毛の下などから切除し、必要に応じて眼輪筋も同時に除去します。
立位または座位で瞼の状態を確認し、自然な仕上がりとなるよう皮膚の切除範囲を慎重に決定します。
縫合は細い糸で丁寧に行い、できるだけ目立たない傷跡になるよう配慮します。
この術式により、まつげを押し下げていた皮膚が取り除かれることで、瞼の開閉がスムーズになり、視界も改善されます。
年齢に関係なく保険適用される眼瞼下垂手術
眼瞼下垂の手術は、年齢にかかわらず保険適用の対象となります。
年齢制限は設けられておらず、眼科や形成外科での診察や検査の結果、医師により眼瞼下垂と診断されれば、子どもでも大人でも保険で手術を受けることが可能です。
保険が適用される条件とは?
眼瞼下垂手術で保険が認められるためには、以下のような条件を満たす必要があります。
- 重度の眼瞼下垂症であると医師が診断していること
- 美容目的ではなく、視界や生活に支障をきたす機能的な障害があること
- 使用される術式・薬剤が厚生労働省の承認を受けていること
なお、眼瞼下垂には明確な統一診断基準が存在しておらず、医療機関ごとに判断基準が異なるのが実情です。
一般的には、「上瞼の縁と黒目の中心(瞳孔)の距離が約3.0〜3.5mm以下」となっている場合に、眼瞼下垂と診断されることが多くなっています。
まとめ
今回は、中学生に見られる眼瞼下垂の原因・治療法・手術の時期・保険適用の有無についてご紹介しました。
中学生に症状が現れる場合、その多くは先天的に瞼を持ち上げる筋肉が弱い「先天性眼瞼下垂」であることが考えられます。
しかし近年では、スマートフォンの長時間利用や、目元を擦るなどの日常的な摩擦刺激が要因となって、正常だった瞼に負担がかかり、後天的に眼瞼下垂を発症するケースも増えています。
見た目の問題に留まらず、学業や精神面にまで影響を及ぼす可能性があるため、気になる症状がある場合は、できるだけ早く医療機関での診察を受けることをお勧めします。
