感染した粉瘤は抗生物質で小さくなる?抗生物質の役割について

粉瘤が突然赤く腫れたり、触れたときに強い痛みを感じたりすると、「抗生物質を飲めば治るのでは?」と考える方もいらっしゃるでしょう。

ここでは、粉瘤に炎症が生じる仕組みをはじめ、抗生物質で粉瘤を小さくできるか、根治にはどのような治療が必要なのかについて解説します。

粉瘤について

皮膚の下に袋状の構造が形成され、その内部に角質などが少しずつ蓄積してできる病変が「粉瘤」です。「アテローム」や「表皮嚢腫」と呼ばれることもあり、基本的には良性の病変です。本来であれば皮膚表面から剥がれ落ちるはずの角質が排出されず、皮膚の下に形成された袋状の構造(嚢腫壁)の内部に蓄積することで発生します。

痛みなどの症状がない粉瘤では、必ずしもすぐに治療しなければならないわけではありません。ただし、自然に消失することは基本的になく、次第に大きくなったり、炎症を起こしたりする可能性があります。特に赤みや腫れ、熱感、痛みなどが現れた状態は「炎症性粉瘤」と呼ばれます。炎症が強くなる前であれば、比較的小さな切開で摘出できる場合もあります。

粉瘤はどのようにしてできる?

粉瘤が大きくなる背景には、皮膚の下にできた「袋」と、その内部に蓄積する角質があります。代表的な表皮嚢腫では、皮膚を構成する表皮成分が皮膚の内側に入り込むなどして嚢腫壁が形成されます。袋の内面では角質が作られますが、それを通常の皮膚のように体外へ排出することができません。このため、内容物が蓄積するにつれて、皮膚の下のしこりも徐々に目立つようになります。

発生のきっかけがはっきりしないケースは珍しくありません。一方、外傷などをきっかけとして生じる場合もあり、発生する部位や粉瘤の種類によって成り立ちが異なることがあります。また、多発しやすい方もいます。

粉瘤に炎症が起こるのはなぜ?

普段は痛みのない粉瘤でも、細菌感染によって炎症を起こすと短期間のうちに赤みや腫れが強くなり、触れただけでも痛みを感じることがあります。

粉瘤の炎症・感染に繋がる要因

粉瘤に細菌感染が加わるきっかけの1つとして、皮膚の傷などから細菌が入り込むことが考えられます。また、粉瘤には皮膚表面に繋がる小さな開口部が見られることがあり、こうした部分が細菌の侵入経路となる場合もあります。

特に注意したいのが、粉瘤を自分で強く押したり潰したりする行為です。内容物を無理に押し出そうとすると皮膚や粉瘤の壁を傷つけ、炎症を悪化させる可能性があります。さらに、傷ができれば、手指などに付着している細菌が侵入するきっかけにもなります。

日常的な摩擦や圧迫も粉瘤を刺激する要因になります。例えば、背中や臀部などにできた粉瘤は、衣服との擦れや座った際の圧力を繰り返し受けやすい部位です。こうした刺激によって炎症が生じたり、症状が悪化したりすることがあります。

そのため、粉瘤に気づいても自分で処置しようとせず、できるだけ触ったり圧迫したりしないことが大切です。赤みや腫れ、痛みなどが現れた場合には、症状が強くなる前に当院にご相談ください。

感染に関係する細菌

粉瘤に細菌感染が生じた場合、原因となり得るのは、特別な細菌だけではありません。元々皮膚などに存在している細菌が関与するケースもあります。

代表的なものとして挙げられるのが、黄色ブドウ球菌です。黄色ブドウ球菌は、膿瘍をはじめとした皮膚・軟部組織感染症の原因となる細菌として知られています。この他にも、感染の状態によって様々な細菌が関与する可能性があります。

炎症が起こる仕組み

粉瘤に細菌感染が加わると、身体は感染を抑えるために炎症反応を起こします。患部には免疫細胞が集まり、細菌を排除しようと働きます。その過程で、免疫細胞や細菌、壊れた組織などが集積すると膿が形成され、膿瘍となることがあります。

こうした炎症反応が強まるにつれて、粉瘤の周囲には赤みや腫れ、熱感、痛みといった症状が現れます。短期間でしこりが大きくなったように感じたり、何もしていなくてもズキズキと痛んだりする場合もあります。

また、感染が粉瘤の周囲まで広がると、皮膚や皮下組織に炎症が及ぶ「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」を生じることがあります。さらに感染が強くなると、発熱や悪寒、倦怠感などの全身症状を伴う場合もあるため、腫れや赤みが急速に広がっているときには早めの受診が必要です。

粉瘤は抗生物質によって小さくなる?

抗生物質を使用して腫れが引くと、「お薬で粉瘤が小さくなった」と感じることがあります。しかし、抗生物質には粉瘤そのものを消失させたり、袋を縮小させたりする作用はありません。

抗生物質の役割は、細菌を死滅させたり増殖を抑えたりすることです。そのため、細菌感染を伴う粉瘤では感染を改善する目的で使用されることがあります。一方、粉瘤の本体である袋状の組織は細菌によって形成されたものではないため、抗生物質を服用しても取り除くことはできません。

治療後に赤みや腫れ、痛みなどが軽減すれば、患部が以前より小さく見える場合があります。これは主として炎症による腫れが改善したためであり、皮膚の下にある粉瘤そのものが治癒したことを意味するものではありません。

袋が残っていれば、その内部では再び角質が蓄積する可能性があります。そのため、一度症状が治まっても、時間の経過とともにしこりが大きくなったり、同じ場所で炎症を繰り返したりすることがあります。再発を防ぎ、粉瘤を根本的に治療するには、状態に応じて袋を含めて摘出する手術が必要です。

また、抗生物質は必要性を判断したうえで適切に使用することが重要です。不必要な服用や不適切な使用は、抗生物質が効きにくい薬剤耐性菌を増やす要因になります。手元に残っているお薬を自己判断で服用したり、処方されたお薬の飲み方を独自に変更したりせず、医師の指示に従って使用しましょう。

抗生物質が使用されるケース

粉瘤に炎症があるからといって、全てのケースで抗生物質が必要になるわけではありません。細菌感染の有無や炎症が及んでいる範囲、膿瘍の形成、全身症状などを確認し、それぞれの状態に応じて使用するかどうかを判断します。

細菌感染が疑われ、周囲に炎症が広がっている場合などには、抗生物質による治療が選択されることがあります。特に蜂窩織炎を伴っている場合や、発熱などの全身症状が見られる場合には、感染の拡大を抑えるために抗生物質の治療が重要になります。

一方、粉瘤の内部に膿が溜まり、明らかな膿瘍が形成されている場合には、抗生物質だけで十分な改善が得られないことがあります。このようなケースでは、患部を切開して内部の膿を排出する「切開排膿」が治療の中心となります。抗生物質を併用するかどうかは、炎症の広がりや全身状態、基礎疾患などを考慮して判断されます。

また、粉瘤の摘出手術や切開排膿を行ったからといって、全ての患者様に感染予防目的の抗生物質が必要になるわけではありません。処置の内容や感染の程度、患者様の状態などを踏まえ、必要性がある場合に使用します。

このように、抗生物質は細菌感染を治療するうえで重要な役割を担いますが、粉瘤を形成している袋そのものを取り除く治療ではありません。炎症や感染への対応と、粉瘤そのものに対する根治治療は分けて考える必要があります。症状が落ち着いた後も粉瘤が残っている場合には、再び炎症を起こす可能性を考慮し、必要に応じて摘出手術を検討します。

抗生物質の使用判断

粉瘤に細菌感染が生じ、抗生物質による治療が必要と判断された場合には、皮膚・軟部組織感染症で原因となりやすい細菌を想定してお薬が選択されます。ただし、使用する抗生物質は全ての患者様で同じではありません。

実際の処方では、感染の程度や膿瘍の有無、これまでの抗生物質の使用歴、薬剤アレルギー、基礎疾患などを考慮します。

また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のように、一部の抗生物質が効きにくい細菌が関与する可能性もあります。こうしたケースを含め、必要以上に広い範囲の細菌へ作用する抗生物質を安易に使用するのではなく、患者様の状態や想定される原因菌に適したお薬を選択することが重要です。

抗生物質の服用期間

一般的には5〜14日ほど服用しますが、感染の程度や治療後の経過、選択したお薬などによって異なります。

処方された抗生物質については、医師から指示された用量や服用期間を守ることが大切です。症状が軽くなったからといって自己判断で中止した場合、再発などのリスクがあります。

副作用

抗生物質は、種類によって服用する回数やタイミング、注意すべき副作用などが異なります。処方を受けた際には、医師や薬剤師から説明された方法に従って使用してください。

服用中には、下痢や吐き気、腹部症状、発疹などが見られることがあります。副作用が疑われる場合には、症状の程度に応じて医師や薬剤師へ相談してください。

特に、息苦しさ、喉や顔の腫れ、急速に広がる蕁麻疹など、重いアレルギー反応を疑う症状が現れた場合には、服用を中止したうえで速やかに医療機関を受診する必要があります。

炎症性粉瘤の治療の進め方

炎症性粉瘤の治療は、単に抗生物質を服用して経過を見ればよいとは限りません。赤みや痛みの程度、膿が溜まっているか、炎症が周囲へ広がっているかなどを診察し、その時点の状態に適した治療を選択します。

炎症が比較的軽く、明らかな膿瘍が形成されていない場合には、患部への刺激を避けながら経過を観察し、細菌感染が疑われる状況では抗生物質による治療を検討します。

一方、内部に膿が溜まり、強く腫れて痛みを伴っている場合には、膿を外へ排出する処置が必要になることがあります。局所麻酔を行ったうえで患部を切開し、溜まった膿や内容物を排出することで、内部の圧力を減らして炎症の改善を図ります。切開排膿後は、傷口の状態に応じて洗浄やガーゼ交換などの処置を行いながら治癒を待ちます。通院の頻度や処置方法は、傷の大きさや炎症の程度によって異なります。

ただし、切開排膿の目的は、主として急性期の炎症や膿瘍を改善させることです。処置後に粉瘤を形成している袋が残っていれば、再び内容物が溜まったり、同じ場所で炎症を起こしたりする可能性があります。そのため、再発を防ぐ目的で、炎症が落ち着いた段階に粉瘤の摘出手術を検討することがあります。

炎症が強い時期は、周囲の組織との境界が分かりにくくなったり、粉瘤の壁が破れていたりするため、袋を完全に取り除くことが難しくなる場合があります。このため、まず急性の炎症に対する治療を行い、状態が改善してから摘出手術を行う方法が選択されることがあります。

ただし、炎症を起こしている粉瘤に対する手術のタイミングは一律ではありません。症状や粉瘤の大きさ・部位、炎症の程度などによっては、急性期に摘出を検討できるケースもあります。切開排膿を先に行うのか、摘出手術をどの時期に行うのかについては、患部の状態を診察したうえで判断します。