眼瞼下垂は、瞼を開く腱膜や筋肉が低下することで、目をしっかりと開けられなくなる疾患です。
「最近、瞼が重くなった」「視界が狭まった」などの症状を自覚する場合、眼瞼下垂の可能性があり、眼科への受診が推奨されます。
しかし、どの診療科に受診した方が良いのか迷われている方もいらっしゃるでしょう。
結論を言うと、眼科に受診しても大丈夫ですし、形成外科や美容外科に受診頂いても大丈夫です。
本ページでは、眼瞼下垂の治療を考えている方を対象に、どの診療科に受診すべきか、各診療科のメリット・デメリットを照らし合わせながら解説します。
是非、参考にして頂けますと幸いです。
●各診療科の特徴、眼瞼下垂の手術のメリット・デメリット
眼瞼下垂は、眼科・形成外科・美容外科のいずれかの診療科で治療を受けられます。
しかし、検査や診断の質、手術の目的や費用などは異なります。
以下で各診療科の特徴、メリット・デメリットを詳しく解説します。
【眼科】
眼科は、目の症状・疾患を専門とした診療科です。
眼球の状態を詳しく調べることができ、手術の大半は手術顕微鏡を使用して進めるので、精緻な治療を行えます。
眼瞼下垂と似た症状を示す疾患も多数あり、患者様自身では判断が非常に困難です。
偽性眼瞼下垂は、眼瞼下垂と症状が似ていますが、これは他疾患(眼瞼皮膚弛緩症や眼瞼痙攣など)により一見上瞼が下がっているように見える状態で、実際に眼瞼下垂を発症しているわけではありません。眼瞼下垂の手術を実施しても症状は解消しないため、正しく見極める必要があります。
ほぼ全ての眼科には細隙灯顕微鏡などの専用の医療機器が導入されており、患者様の症状に合わせて適切な検査を実施しています。そのため、眼瞼下垂の原因ならびに他疾患の有無を正確に調べられます。眼瞼下垂なのかご自身では判断がつかない方、別の疾患の可能性がある場合、最初は眼科を受診することをお勧めします。
眼科で行う眼瞼下垂の手術は、機能を改善することが一番の目的となり、「目を大きくしたい」「左右の目のバランスをきれいにしたい」など、見た目の希望に対して完全には沿えません。
また、眼科によっては皮膚の切開・縫合など外科手術を行っていないこともあるため、受診前に眼瞼下垂手術の実績があるか確認しておくことをお勧めします。
眼科で眼瞼下垂手術を受けるメリット
- 専用の医療機器が導入されており、眼球の状態を詳しく調べられる
- 顕微鏡を使用して精緻な治療を行える
- 検査・治療は健康保険で受けられる
眼科で眼瞼下垂手術を受けるデメリット
- 眼科によっては外科手術に対応していないことあるため、事前に確認する必要がある
- 見た目の希望に対しては基本的には対応できない
【形成外科】
形成外科は、身体の表面に起こった異常・疾患を専門とした診療科です。
先天性の異常・疾患・外傷などによりできた傷や欠損、変形などに対して外科手術を行い、改善を図ります。
形成外科では、体の表面であればどの部位でも治療を行え、瞼の異常である眼瞼下垂も対応しています。
また、生まれつき上眼瞼挙筋の力が弱いこと、あるいは瞼を上げる筋肉をコントロールする神経の異常があることで起こる先天性の眼瞼下垂の治療も行えます。
体の表面の機能改善に加え、眼科に比べると見た目を改善することにも長けている点がポイントとなります。
眼瞼下垂の治療であれば、症状改善を一番の目的に置きつつ、審美的な視点も考慮した手術を行えます。
一方、形成外科では、眼球の状態について詳しく調べることができません。また、体の表面全ての部位を対象としているため、瞼を専門とする医師は眼科に比べると圧倒的に少ないです。手術においても、眼科のように顕微鏡を用いることはほとんどなく、肉眼あるいはルーペを用いて行うことが多いです。
形成外科で眼瞼下垂手術を受けるメリット
- 機能改善に加え、審美的な視点も考慮して手術を行える
- 切開手術や縫合の高い技術を持つ医師が担当する
- 検査・治療は健康保険で受けられる
形成外科で眼瞼下垂手術を受けるデメリット
- 眼球の状態について詳しく調べられない
- 瞼を専門とする医師は眼科に比べると圧倒的に少ない
【美容外科】
美容外科は、形成外科の一分野としての位置づけですが、治療目的や治療対象、保険の適用などに大きな違いがあります。
形成外科は体の表面に起こる異常を治療する一方で、美容外科は異常がない健康な部位に対して「より美しくする」など審美的な目的で治療を行います。
形成外科の手術の目的は、傷や損傷、変形を改善することにあり、外見的な変化はあくまで手術の結果として得られるものです。
眼瞼下垂の手術に対応した美容外科クリニックは多数あります。
瞼の開きを改善することに加え、たるみの解消、二重幅を広くするなど、美容的な要望にも対応できる点が、美容外科と他の診療科との違いです。
また、眼瞼下垂の手術のほか、目頭切開や二重術など様々なメニューが用意されているため、これらの施術を一緒に受けることで希望する目元に近づけられます。
なお、治療は自由診療となり、費用が比較的高額になる点がデメリットです。
また、美容外科で行う眼瞼下垂の手術は「周囲から整形したと思われる」と心配される方も少なくありません。
実際、眼科で行う保険適用の手術と比較した場合、審美的な目的を一番に置く美容外科での手術は整形手術の側面が強いです。
「周囲から整形ではないか?」と思われることに不安がある方は、最初に眼科を受診されて意見を聞いた方が良いでしょう。
美容外科で眼瞼下垂手術を受けるメリット
- 審美性を第一とし、希望する目元に仕上げられる
- 眼瞼下垂とは別の施術も同時に受けられる
美容外科で眼瞼下垂手術を受けるデメリット
- 眼球の状態について詳しく調べられない
- 自由診療となるため、費用が高額になる
●保険適用・費用について
眼瞼下垂の治療は保険診療と自由診療に分けられます。
保険診療は公的医療制度の対象となる診療で、医療費の自己負担は最大3割となります。
一方、自由診療は医療保険制度を用いない診療で、医療費は患者様の全額自己負担となります。
保険の適用有無は診療科によって違います。治療費が大きく変動するため、予め確認しておくことが大切です。
診療科 | 保険適用 |
---|---|
眼科 | あり |
形成外科 | あり |
美容外科 | なし |
科・形成外科は、異常・疾患の治療を一番の目的としており、ほとんどの場合は治療に保険が適用されます。そのため、眼瞼下垂の治療費も患者様の負担は少なく抑えられます。
なお、疾患の症状・機能改善に留まり、審美的な希望に対しては基本的に対応できません。
また、眼瞼下垂が軽度であると判断された場合、保険が適用されないこともあります。
一方、美容外科では基本的に治療は自由診療となります。患者様の費用負担は大きくなりますが、審美的な要望が強い場合は美容外科の受診をお勧めします。
なお、日常生活に影響が出ている重度の眼瞼下垂では、美容外科でも保険が適用されることがあります。
※当院での保険適用の有無については診断後の判断となります(症状のない方は自費診療)。難しい症例の治療が必要な方は近隣の大学病院を紹介いたします。
●眼瞼下垂の治療法
眼瞼下垂は内服薬や注射などの薬物療法では効果が見込めないため、治療は手術が基本となります。眼はご自身の印象を左右する重要な部位のため、患者様の状態に適した処置となるように手術は様々な方法が確立されています。当院では保険適用となる手術を行っています。以下が主な術式です。
【挙筋前転術(きょきんぜんてんじゅつ)】
緩んだ、あるいは外れた挙筋腱膜を瞼板に再固定する手術です。まずは上瞼の二重の線を切開します。その後、緩んでいる挙筋腱膜と瞼板を切り離し、挙筋腱膜を前転して、腱膜がしっかり張った状態で糸を使って瞼板に再固定します。たるみが解消されることで、目を開けやすくなります。
※当院では筋肉性の眼瞼下垂への手術は行っておりません。診断の結果、難しい症例の治療が必要な方は近隣の大学病院を紹介いたします。
【前頭筋吊り上げ術(ぜんとうきんつりあげじゅつ)】
上眼瞼挙筋の挙上機能が大幅に低下しており、挙筋前転術では治療効果が期待できない重症例が対象となります。太もも外側の筋膜や糸などを用いて、眉毛を上げる筋肉(前頭筋)と瞼板を連結する手術です。眉毛を上げる動作により、目を開けやすくなります。
※当院では筋肉性の眼瞼下垂への手術は行っておりません。診断の結果、難しい症例の治療が必要な方は近隣の大学病院を紹介いたします。
【余剰皮膚切除術(びもうかよじょうひふせつじょじゅつ)】
余ってたるんだ上眼瞼皮膚を切除する手術です。上眼瞼皮膚を切除する「眼瞼皮膚切除」と眉毛の下のラインで切除する「眉毛下皮膚切除」の2つがあります。切除範囲は、患者様が立った状態、もしくは座った状態で診察を行い決めていきます。また、目の周りを囲む眼輪筋も切除することもあります。最後は細い糸により縫合します。瞼が下がる原因となるたるんだ皮膚を切除するため、目が開きやすくなります。
●眼瞼下垂手術の費用目安
眼瞼下垂の手術は上述したようにいくつかの術式があり、内容に応じて費用が異なります。
以下は、各手術方法後との費用の目安となります。
手術方法 | 費用目安(片目) |
---|---|
挙筋前転術 |
保険診療: 約22,000円(3割負担) |
前頭筋吊り上げ術 |
保険診療: 約56,000円(3割負担) |
余剰皮膚切除術 |
保険診療: 約18,000円(3割負担) |
※上記の費用には、診察代や検査代、麻酔代は含まれていません。
美容外科にて自由診療で手術を受ける場合、様々な術式から、希望する目元に近づけるための適切な術式を選択できます。
なお、手術費用はクリニックによって違いがあり、施術内容なども異なります。そのため、複数のクリニックを比較しましょう。
※当院での保険適用の有無については診断後の判断となります(症状のない方は自費診療)。難しい症例の治療が必要な方は近隣の大学病院を紹介いたします。
●眼瞼下垂の手術が保険適用となる条件
眼瞼下垂の手術全てに保険が適用されるわけでなく、以下のように条件があります。
- 眼瞼下垂の診断を受けている。
- 美容目的の手術ではなく、疾患や怪我の治療が目的である。
- 治療法が、国が承認した治療法であり、厚生労働省より承認されている医薬品が使用されている。
保険適用の有無については診断後の判断となります(症状のない方は自費診療)。難しい症例の治療が必要な方は近隣の大学病院を紹介いたします。
●よくある質問
Q.眼瞼下垂ではどの診療科を受診すべきですか?
一般的には眼科あるいは形成外科となります。審美的な要望が強い場合は美容外科への受診が推奨されますが、自由診療となるため注意が必要です。
Q.眼科と形成外科にはどういう違いがありますか?
眼科は目の異常・疾患を治療対象としています。一方、形成外科は体表面の全ての部位を治療対象とし、クリニックによっては機能改善と審美的な視点の両方に配慮した治療を行っています。
Q.形成外科と美容外科はどういう違いがありますか?
美容外科は形成外科の一分野ですが、審美性を第一の目的としています。
Q.美容外科の手術はどういったデメリットがありますか?
自由診療となり、患者様の費用負担が大きくなります。
Q.眼瞼下垂の手術には保険が適用されますか?
眼科や形成外科での機能改善を目的とした手術には基本的に保険が適用されます。
●まとめ
本ページでは、眼瞼下垂の治療でどの診療科に受診すべきかについて、各診療科の比較をしながら解説しました。形成外科や美容外科でも眼瞼下垂の治療を受けられますが、眼瞼下垂の重症度を知りたい場合、別の疾患の可能性がある場合、最初は眼科を受診することをお勧めします。
そこから、眼瞼下垂の重症度、予算、希望の仕上がりなどに応じて、どの診療科に受診するか選びましょう。