眼瞼下垂には予防できるものと予防できないものがあります。
本ページでは、生活習慣の見直しやトレーニングなど日常生活で取り組める予防策、医療機関にて行う予防注射などについて詳しく解説します。
●眼瞼下垂とは
眼瞼下垂とは、何らかの原因によって、瞼を開く筋肉や腱膜の機能が低下することで、目をしっかりと開けられなくなる疾患です。
目を開けようとしても、瞼が瞳孔(黒目の中心)に部分的に覆いかぶさってしまいます。
症状は片目あるいは両目に起こり、程度は個人差があります。重症例では、視野が狭窄して日常生活に支障を及ぼします。
このように、眼瞼下垂では視野が狭窄することが最も注意すべき点です。
眼瞼下垂は年齢問わず発症する可能性があり、先天性の「先天性眼瞼下垂」、後天性の「後天性眼瞼下垂」、そして機能的異常はないものの眼瞼下垂と似た状態である「偽眼瞼下垂」に大別されます。
先天性眼瞼下垂は、出産直後から眼瞼下垂の症状が出ている状態ですが、その多くは原因が分かっていません。生まれつき眼瞼挙筋が未発達である、あるいは筋肉をコントロールする神経に異常が起こっていることが主な原因と言われています。
一方、後天性眼瞼下垂は少しずつ、あるいは突然瞼が下がっていく疾患です。加齢が主な原因となりますが、他にもコンタクトレンズの長時間の装用など瞼に負担をかける行為、別の疾患によって起こることもあります。
●眼瞼下垂の症状
眼瞼下垂の主な症状としては、以下のようなものがあります。
該当する症状が起きている方は、一度当院までご相談ください。
【瞼・視野に関する症状】
- 目を十分に開けない
- 瞼を上げにくい
- 瞼が重くなった
- 上瞼が目にかかって物が見えづらい
- 視野が狭くなった
- 目の奥が痛くなる など
【外見上の変化】
- 「いつも眠たそう」と言われる
- 「睨んでいるように見える」と言われる
- 二重が間延びした
- 一重だったのに二重になった
- 瞼の上がくぼんで老けた印象を持たれる など
【随伴症状】
瞼が下がって目を十分に開けなくなるため、それを補おうと額の筋肉である前頭筋により瞼を上げる癖がつき、さらに自律神経の失調を招きます。
そのため、視野狭窄や外見上の変化に加え、以下のような症状を伴うことがあります。
- 肩こり
- 頭痛
- めまい
- ふらつき
- 疲労感
- 睡眠障害
- 瞼・眼瞼の筋肉痙攣
- 光が眩しい
- 冷え
- 便秘・下痢 など
●予防可能な眼瞼下垂と予防できない眼瞼下垂
以下では眼瞼下垂の各タイプが予防可能なのか、あるいは予防が不可能なのかについて解説します。
【先天性眼瞼下垂】
結論から言うと、先天性眼瞼下垂については有効な予防法は確立されていません。
前述したとおり、先天性眼瞼下垂は産後直後から症状が出ている状態で、生まれつき眼瞼挙筋が未発達である、あるいは筋肉をコントロールする神経に異常が起こっていることが主な原因となります。しかし、このメカニズムが明確になっていません。
また、先天性眼瞼下垂の一部は遺伝によって起こります。先天性眼瞼下垂を発症した方が家族にいる場合、その子どもも眼瞼下垂を発症する可能性が高いです。なお、全てが遺伝というわけではなく、ほとんどは孤発性のものです
このように生活習慣や加齢などとは関係なく発症するため、現状は予防する術がありません。
【偽眼瞼下垂】
偽眼瞼下垂とは、瞼を上げる筋肉や腱膜などには異常は起こっていないですが、別の原因により「瞼が下がっているように見える状態」です。
偽眼瞼下垂の原因は、先天性と後天性に分類されます。
例えば、生まれつき一重の方や奥二重の方は、きれいな二重の方よりも瞼を開きづらいです。これは、皮膚や筋肉が厚い、脂肪が多いことなどにより瞼が重たくなっているからです。日本人は腫れぼったい瞼となる傾向があるため、先天的な偽眼瞼下垂の方が多いとされています。
先天性の偽眼瞼下垂は、先天性眼瞼下垂と違って眼瞼挙筋や神経には異常がないので別の疾患として扱う必要がありますが、生まれつきの特徴という点では同じです。そのため、予防する術はなく、改善するには手術が必要となります。
一方、後天性の偽眼瞼下垂は加齢やストレスなどによって起こる様々な疾患が原因となりますが、疾患を引き起こす要因に対して適切な対策を講じることで予防が可能となります。
このように、予防可能かどうかは偽眼瞼下垂が先天性なのか、後天性なのかによって異なります。
【後天性眼瞼下垂】
後天性眼瞼下垂は、先天性眼瞼下垂とは違い、最初は目を問題なく開けられていたにもかかわらず、少しずつもしくは突然上瞼が下がっていきます。特徴として、症状が両目に出ることが多いですが、片目だけ症状が現れる方もいらっしゃいます。
根本的な原因は、加齢や疾患など様々なものがあり、その原因に応じて神経原性眼瞼下垂、機械性眼瞼下垂、筋原性眼瞼下垂など複数の種類に分けられます。
なかでも目の腱膜(挙筋腱膜)が伸びる、あるいは緩むことで発生する腱膜性眼瞼下垂が多いです。
神経原性眼瞼下垂は、瞼を上げる筋肉(眼瞼挙筋)をコントロールする動眼神経に異常が起こることで発生します。神経に異常を起こす主な原因疾患には、重症筋無力症や脳腫瘍、脳卒中などがあります。機械性眼瞼下垂は、浮腫や腫瘍などによる機械的刺激が原因となるタイプです。筋原性眼瞼下垂は筋肉の疾患が原因となるタイプです。
下記の表は、それぞれの眼瞼下垂の関連疾患です。
眼瞼下垂の種類 | 関連疾患・原因 |
---|---|
腱膜性 | 加齢・眼科手術 |
神経性 | 重症筋無力症、脳腫瘍、脳卒中 |
機械性 | 浮腫、腫瘍 |
筋原性 | 筋ジストロフィー、慢性進行性外眼筋麻痺 |
瞼を開く際は、眼瞼挙筋→挙筋腱膜→瞼板の順に力が伝わります。
後天性眼瞼下垂は、上記の表のような後天的な原因によって眼瞼挙筋の力が伝わらなくなることで起こります。
挙筋腱膜が断裂、あるいは瞼板から外れている場合、改善するには手術が不可欠です。なお、眼瞼挙筋が弱まっている状態の場合は、眼瞼挙筋を鍛えることで症状の改善が見込めます。
後天性眼瞼下垂の治療は外科手術が基本となり、眼瞼挙筋や挙筋腱膜を短縮あるいは再固定し、機能回復を目指します。また、眼はご自身の印象を左右する重要な部分のため、手術により外見も改善します。
手術方法は、眼瞼下垂の種類や重症度、挙筋機能により適切な方法が選択されます。眼瞼下垂は治療可能な疾患の合併症として起きている場合、あるいは外科手術が適切ではないと判断される場合、非外科的な治療を行うこともあります。
例えば、浮腫や腫瘍が原因となる機械的眼瞼下垂は、これら原因を除去することで解消することが多いです。重症筋無力症が原因となる神経因性眼瞼下垂症の場合、薬物療法により基礎疾患をコントロールすることで症状の解消が見込めます。
まとめると、後天性眼瞼下垂は様々な原因があり、原因に応じた治療を行うことで症状の改善・予防が可能となります。
また、瞼に負担をかける生活習慣が原因となることもあるため、生活習慣を改善することで予防効果が見込めます。この点については後ほど詳しく解説します。
【腱膜性眼瞼下垂について】
腱膜性眼瞼下垂は、挙筋腱膜が瞼板から外れることが主な原因となります。
挙筋腱膜は瞼板に対する接着力はそこまで強くありません。
加齢性の眼瞼下垂は、加齢に加え、目を擦ったりマッサージしたりする刺激により、この接着が外れることで発生します。
また、加齢性の眼瞼下垂の患者様は、上瞼が凹んでいる方が多い傾向にあります。これは、筋肉や腱膜を外部の刺激から保護する緩衝材の役目を果たす眼窩脂肪が加齢によって減少するため、ダメージを受けやすくなっていることが理由として考えられます。
そのため、上瞼が凹んでいる状態の方で眼瞼下垂と診断された場合、加齢性の眼瞼下垂の可能性が高いです。
腱膜性眼瞼下垂の手術では、挙筋腱膜を再固定する「挙筋前転術」、あるいは眼瞼挙筋を短縮して瞼板に縫合する「眼瞼挙筋短縮術」を行うことが多いです。これら手術により、挙筋腱膜と瞼板の接合が正常化し、瞼を開きやすくなります。
なお、挙筋腱膜が長時間外れた状態でいると、時間の経過とともに腱膜が薄くなり、眼瞼挙筋の力が弱まっていきます。
人の身体は加齢に伴って筋量が減少していき筋力も低下していきますが、挙筋腱膜・眼瞼挙筋も同じで加齢に伴って非薄化・脆弱化していきます。
このため、高齢者の眼瞼下垂の手術は難易度が高まります。挙筋機能が弱まった重症例では、予防が困難となり手術が必要な段階です。
眼瞼下垂の症状が現れ始めた場合、挙筋機能がまだ残っている早い段階で医療機関を受診しましょう。
●眼瞼下垂の重症度
前述したとおり、眼瞼下垂が重度まで進行すると予防が困難となるため、軽度の段階から予防に取り組むことが重要です。
眼瞼下垂の重症度は、思い切り瞼を持ち上げ、瞼が瞳孔に被っているかどうかで容易に判定できます。
医療機関ではMRDという指標を用いてより詳細に判定を行います。
MRD-1
「MRD」とは瞼の開き具合を確認するための指標です。
MRDは、MRD-1(瞳孔中央から上眼瞼縁までの距離)とMRD-2(瞳孔中央から下眼瞼縁までの距離)に分けられます。
MRD-1は眼瞼下垂の程度を評価する指標としてよく使われています。
- 正常:2.7~5.5mm
- 軽度:1.5~2.7mm程度
- 中等度:-0.5~1.5mm程度
- 重度:-0.5mm以下
※MRD-2を測定することにより、上下左右の眼瞼の相対的位置関係を判定可能です。
●眼瞼下垂の予防と対策
眼瞼下垂は自然治癒が望めず、改善には手術が不可欠です。
眼瞼下垂を発症しないように、以下の予防法に取り組みましょう。
日頃から取り組める予防策
眼瞼下垂の予防には、瞼に負荷がかからないように生活習慣を改善する必要があります。
【瞼にダメージを与えない】
目のかゆみが気になって擦ってしまったり、瞼をマッサージすることで、瞼に刺激が加わってしまいます。
花粉症やアトピー性皮膚炎などによるかゆみが気になる場合、医療機関を受診してかゆみを抑える治療を受けましょう。
また、アイメイクを落とす際も強く瞼を擦らないようにご注意ください。クレンジングの際に瞼に負担がかからないよう、濃いアイメイクやつけまつ毛はできれば控えた方が良いでしょう。また、アイテープやアイプチも、のり成分がかぶれの原因となり、瞼に負荷がかかるため、できれば控えることをお勧めします。
【紫外線対策と保湿ケアを徹底する】
目のかゆみが気になって擦ってしまったり、瞼をマッサージすることで、瞼に刺激が加わってしまいます。
花粉症やアトピー性皮膚炎などによるかゆみが気になる場合、医療機関を受診してかゆみを抑える治療を受けましょう。
また、アイメイクを落とす際も強く瞼を擦らないようにご注意ください。クレンジングの際に瞼に負担がかからないよう、濃いアイメイクやつけまつ毛はできれば控えた方が良いでしょう。また、アイテープやアイプチも、のり成分がかぶれの原因となり、瞼に負荷がかかるため、できれば控えることをお勧めします。
【パソコンやスマートフォンなどを見続けない】
パソコンやスマートフォンを長時間見ていると目に負担がかかってしまうため、時折目をつむる、遠くを見るなど、画面から目を離す時間を設けましょう。
また、作業中のまばたきの回数を増やすことで、目の表面の乾燥を防げます。
【コンタクトの付け外しはゆっくり行う】
コンタクトレンズの付け外しの際に瞼を強く引っ張ると、瞼に負担がかかり、眼瞼下垂が起こる可能性があります。そのため、付け外しはゆっくり行いましょう。
また、コンタクトレンズの装用時間もなるべく短時間に抑えることも有効です。ご自宅で過ごす間は眼鏡を装用することで、眼瞼挙筋の負担を抑えられます。
ハードコンタクトレンズをお使いの方は、ソフトコンタクトレンズに切り替えることでも眼瞼下垂の発症リスクを減らすことができます。
【眼瞼挙筋を鍛える】
眼瞼下垂は、瞼を上げる筋肉である眼瞼挙筋が弱まることが最大の原因です。
眼瞼下垂の発症を防ぐために、眼瞼挙筋を鍛えるトレーニングを行いましょう。以下はご自宅で行えるトレーニングの手順となります。
―眼瞼挙筋トレーニング
以下の流れを1日に数回行いましょう。
①目をゆっくりと閉じ、額の力を抜きましょう。
②左右の眉を固定するイメージで、手のひらで額全体を押さえましょう。
③両目を思い切り開き、その状態を5秒保ってください。
④静かに目を閉じてリラックスしましょう。
【ボトックス注射】
眼瞼下垂の予防法として、ボトックス注射も有効です。
ボトックスとは、ボツリヌス菌から産生される毒素を抽出・精製した薬剤で、筋肉の働きを一時的に阻害し、収縮力を低下させる効果が期待できます。
加齢などが原因となり眼瞼挙筋が弱ってくると、額の筋肉である前頭筋を使って瞼を上げる癖がつくため、眼瞼挙筋の機能が徐々に弱まっていき眼瞼下垂が起こります。
ボトックスを注射すると、前頭筋の働きが一時的に阻害されるため、眼瞼挙筋を利用して瞼を上げるようになり、眼瞼挙筋が自然に鍛えられます。これにより、眼瞼下垂の予防効果が見込めます。
なお、眼瞼下垂を発症している方に対してボトックス注射を行った場合、症状が増悪する恐れがあるため、検査を受けて眼瞼下垂を発症していないか確認した上で注射を受けましょう。