見えづらくなるといった症状を起こす疾患は様々あり、原因を特定するためにもまずは眼科への受診が推奨されます。
眼科の診察・検査にて眼球に異常がないと判明した場合、原因は瞼にある可能性があります。
原因疾患の1つに「眼瞼下垂」が挙げられます。この疾患は、形成外科にて手術を受けることにより、改善が期待できます。
以下では、眼瞼下垂の治療法や治療の流れについて解説します。
●眼瞼下垂とは
眼瞼下垂とは、目を開ける腱膜や筋肉が低下することで、目を十分に開けられなくなる疾患です。眼瞼下垂はいくつかの種類に分けられ、なかには重症筋無力症という神経障害が原因となって起こるタイプもあります。また、眼瞼下垂を放置していると自律神経が乱れ、片頭痛や肩こりが起こる可能性もあります。似たような症状を示す疾患もあるため、正確な診断が求められます。
「最近、瞼が重くて目を開けづらくなってきた」「額のシワが目立ってきた」など、お悩みの症状がある方は一度当院までご相談ください。
●眼瞼下垂の症状
眼瞼下垂を発症すると、次のような症状がよく起こります。
特に50代以降の方は症状が強く現れることが多いため、参考にして頂ければと思います。
- 瞼が重くなった
- 瞼が重いせいで目を開けているのが辛い
- 上瞼が目にかかって物が見えづらい
- 眼精疲労や頭痛、肩こりなどの症状が繰り返す
また、次のように外見上にも変化が現れます。
- 「いつも眠たそう」と言われる
- 普通にしていても「睨んでいるように見える」と言われる
- 瞼が垂れ下がって、老けた印象を持たれる
- 眉間の横ジワが深くなってきた
- 何か物を見るときに眉毛や顎を上げる癖がついた
眼瞼下垂を治療せずに放置した状態でいると、物が見えづらい、視野が狭くなったなどの症状に加え、眼精疲労や頭痛、肩こりなどの症状も伴うようになります。
これら症状が起きている場合、一度当院までご相談ください。
●眼瞼下垂の原因
眼瞼下垂が様々な原因が考えられますが、以下がよくある原因です。
【加齢】
加齢により筋肉や腱膜が弛緩し、瞼が垂れ下がってしまうことがあります。
特に60代以上の方によく認められますが、早い方では40代から認められます。
【外傷】
交通事故やスポーツ中の接触などにより生じた瞼や目の外傷により、眼瞼下垂が起こることがあります。
【先天性】
先天的に瞼を上げる筋肉である眼瞼挙筋が弱い方は、生後から眼瞼下垂が認められることがあります。
また、先天性の眼瞼下垂は両目に症状が出ることもあります。
【神経疾患】
神経疾患(重症筋無力症など)が原因となり、眼瞼下垂を発症することがあります。
重症筋無力症とは、筋肉と末梢神経の繋ぎ目の神経筋接合部に障害が起こり、筋力が低下する疾患です。
【瞼に負担をかける行為】
日頃から瞼に負担をかける行為をしていると、眼瞼下垂が起こりやすくなります。
例えば、濃いアイメイク、アイテープやアイプチの使用、まつ毛エクステの装着、コンタクトレンズ(特にハードコンタクトレンズ)の装用などが原因となります。
また、花粉症やアトピー性皮膚炎などによるかゆみが気になり、瞼を触ることも瞼に負担がかかります。
これらの行為から、瞼にダメージが少しずつ溜まっていくと、挙筋腱膜が緩む、あるいは外れてしまい、眼瞼下垂を招く可能性があります。
●眼瞼下垂症の種類
後天性眼瞼下垂
後天性の眼瞼下垂です。目を問題なく開けていたのにもかかわらず、突然、あるいは少しずつ瞼が下がっていきます。複数の種類に分類されますが、なかでも挙筋腱膜が伸びる、もしくは緩むことで発症する「腱膜性眼瞼下垂」が多いです。
主な原因は加齢ですが、他にもコンタクトレンズ(特にハードコンタクトレンズ)を長時間装用している方、白内障・緑内障・硝子体の手術を受けた経験がある方は発症リスクが高いです。
先天性眼瞼下垂
先天性の眼瞼下垂です。症状が両目に出ることもありますが、約8割は片目に症状が出ます。主な原因は、生まれつき上眼瞼挙筋の力が弱いこと、あるいは瞼を上げる筋肉をコントロールする神経の異常です。稀に視力の発達に影響が出ることがあり、弱視や斜視の原因となることがあります。弱視や斜視が認められる場合はすぐに手術を行いますが、視力への影響が認められない場合は経過観察での対応となります。手術を行う時期は医師と相談のうえで決めていきます。
偽性眼瞼下垂
顔面神経麻痺や眼瞼痙攣などにより、瞼が下がっているように見える状態です。眼瞼下垂が実際に起こっているわけではありません。眼瞼下垂の手術を実施しても症状は解消しないため、正しい診断が求められます。
医原性眼瞼下垂
医原性眼瞼下垂は、重瞼の埋没法などの施術を受けた後、腫れが引いたにもかかわらず瞼が十分に開かない状態です。頭痛や顔面痙攣が発生する方もいます。埋没した糸を除去することにより改善が期待できます。
●眼瞼下垂症の診断
眼瞼下垂は瞼縁角膜反射距離(MRD)、瞼裂高、挙筋機能検査の3種類の検査で判定します。
MRD-1
「MRD」とは瞼の開き具合を評価する指標です。
MRDは、瞳孔中央から上眼瞼縁までの距離である「MRD-1」と瞳孔中央から下眼瞼縁までの距離である「MRD-2」に分けられます。
このうち、MRD-1は眼瞼下垂の重症度を判断する指標としてよく使用されています。
- 正常:2.7~5.5mm
- 軽度:1.5~2.7mm程度
- 中等度:-0.5~1.5mm程度
- 重度:-0.5mm以下
※MRD-2を計測することで、上下左右の眼瞼の相対的位置関係を判定可能です。
瞼裂高
瞼裂高とは、黒目の最下端から上眼瞼縁までの距離です。
眼瞼下垂の重症度を判断する指標として使われます。
- 正常:10mm以上
- 軽度~中等度:6~9mm程度
- 重度:5mm以下
挙筋機能検査
眼瞼挙筋がどの程度動けているか調べる検査です。
手順は以下の通りです。
-
1.親指で眉毛の上を押さえ、額の筋肉を使って眉毛が動かないようにする
2.その状態のまま、最も上を見た時と最も下を見た時の上眼瞼縁の移動距離を測る
3.移動距離から上眼瞼挙筋がどの程度機能しているかを判断する。
- 正常:8mm以上
- 軽度~中等度:4~7mm
- 重度:3mm以下
※腱膜性眼瞼下垂は、腱膜付着部が少しずれただけなので、上眼瞼挙筋の挙上機能は正常な状態です。
※挙上機能が低下している場合、筋肉や筋肉をコントロールする神経に異常があると判断されます。
※急に上瞼が下がる場合、脳動脈瘤や脳梗塞、糖尿病などが原因となる動眼神経麻痺などの可能性があるため、精密検査としてMRI検査やCT、血液検査などを行います。
※朝は目を問題なく開けるのに、夕方になると下がってくる日内変動が大きい場合、重症筋無力症が疑われます。この場合は血液検査を行います。
●眼瞼下垂の治療法
眼瞼下垂は内服薬や注射などの薬物療法では効果が見込めないため、治療は手術が基本となります。眼はご自身の印象を左右する重要な部位のため、患者様の状態に適した処置となるように手術は様々な方法が確立されています。当院では保険適用となる手術を行っています。以下が主な術式です。
挙筋前転術(きょきんぜんてんじゅつ)
緩んだ、あるいは外れた挙筋腱膜を瞼板に再固定する手術です。まずは上瞼の二重の線を切開します。その後、緩んでいる挙筋腱膜と瞼板を切り離し、挙筋腱膜を前転して、腱膜がしっかり張った状態で糸を使って瞼板に再固定します。たるみが解消されることで、目を開けやすくなります。
※当院では筋肉性の眼瞼下垂への手術は行っておりません。診断の結果、難しい症例の治療が必要な方は近隣の大学病院を紹介いたします。
前頭筋吊り上げ術(ぜんとうきんつりあげじゅつ)
上眼瞼挙筋の挙上機能が大幅に低下しており、挙筋前転術では治療効果が期待できない重症例が対象となります。太もも外側の筋膜や糸などを用いて、眉毛を上げる筋肉(前頭筋)と瞼板を連結する手術です。眉毛を上げる動作により、目を開けやすくなります。
※当院では筋肉性の眼瞼下垂への手術は行っておりません。診断の結果、難しい症例の治療が必要な方は近隣の大学病院を紹介いたします。
余剰皮膚切除術(びもうかよじょうひふせつじょじゅつ)
余ってたるんだ上眼瞼皮膚を切除する手術です。上眼瞼皮膚を切除する「眼瞼皮膚切除」と眉毛の下のラインで切除する「眉毛下皮膚切除」の2つがあります。切除範囲は、患者様が立った状態、もしくは座った状態で診察を行い決めていきます。また、目の周りを囲む眼輪筋も切除することもあります。最後は細い糸により縫合します。瞼が下がる原因となるたるんだ皮膚を切除するため、目が開きやすくなります。
●眼瞼下垂の手術が保険適用となる条件
眼瞼下垂の手術全てに保険が適用されるわけでなく、以下のように条件があります。
- 眼瞼下垂の診断を受けている。
- 美容目的の手術ではなく、疾患や怪我の治療が目的である。
- 治療法が、国が承認した治療法であり、厚生労働省より承認されている医薬品が使用されている。
保険適用の有無については診断後の判断となります(症状のない方は自費診療)。
難しい症例の治療が必要な方は近隣の大学病院を紹介いたします。
●治療による合併症
【腫れ・内出血】
ほとんどのケースで術後に腫れや内出血が起こります。症状の程度は人によって異なりますが、前が見えにくいほど症状が強く現れることもあります。
1週間ほどで症状はかなり治まっていきますが、完全に元の状態に戻るのは3週間ほどかかります。なお、数ヶ月腫れが続くこともあります。症状の改善スピードを早くするために、漢方薬を使用することもあります。
【左右差】
手術は人の手で行うものなので左右差は少なからず発生しますが、その程度は医師の技量によります。
なるべく左右差ができないように手術中に都度チェックしますが、左右差が出た場合は医師が診断を行い、修正のために再度手術を行うこともあります。
【整容的なトラブル】
予期しない部分が癒着してしまい、二重のラインが崩れてしまうことがあります。
医師が診断を行い、修正のために再度手術を行うこともあります。
【低矯正】
低矯正は、瞼の開きが十分でない状態です。
挙筋の状態が悪いことや、術後に腱膜の固定が緩んだことなどにより発生します。再手術を行うことがあります。
【過矯正・閉瞼不全】
低矯正とは反対に、瞼が開きすぎる状態です。手術中に都度確認しますが、調整ミスなどにより発生します。
程度が大きく角膜に障害が発生する可能性がある場合は、すぐに修正手術を行うことがあります。
【ドライアイ】
手術前後で眼球の露出範囲が広がるため、ドライアイが発生します。
特に、手術前からドライアイが起きている方は症状が強くなる可能性があります。
●手術までの流れ
【初診】
問診にて症状の状態や既往歴などをお伺いします。その後、検査を行って眼瞼下垂の原因を特定し、原因・状態に応じた治療法を決めていきます。
この際に手術の予約をお取り頂きますが、基本的には2~3週間ほど先の日程となります。入院となる場合は入院中の注意事項などについての説明も行います。
【手術】
挙筋前転術の場合は、両目で合計1~2時間ほどかかります。
手術後は、瞼の上をガーゼで覆います。
【術後当日】
術後の合併症を防ぐため、瞼を清潔な状態に維持して頂く必要があります。
また、出血が起こらないように、なるべく安静に過ごしましょう。体温が上がると出血が起こりやすいため、当日はシャワー浴・入浴はお控えください。
【抜糸まで】
抜糸を行うまでは創傷部に軟膏を塗布します。
傷は術後1~2日ほどで治っていくので、このタイミングでガーゼを外します。また、洗顔やシャワー浴も可能となります。
【抜糸、抜糸後】
手術から1週間後に抜糸のために当院にお越し頂きます。抜糸が終わればメイクもできるようになります。
術後半年間は後戻りが起こる恐れがあるので、数ヶ月ごとに経過観察のためにご来院頂くことをお勧めしています。
●よくあるご質問
Q.手術中は痛みを感じますか?
局所麻酔を投与するため、手術による痛みを最小限に抑えられます。麻酔針を刺す際は軽い痛みが出ることもありますが、手術中はほぼ痛みを感じないのでご安心ください。
手術から1時間ほど経過したら麻酔薬の効果が切れますので、痛み止めを処方します。
Q.帰宅後に注意すべきことはありますか?
手術後は少し院内で休憩頂き、その後にご帰宅頂けます。帰宅後は瞼に負担がかからないようにできるだけ安静にしてください。
手術後は上瞼をガーゼで覆っているので、隠したい場合は帽子やサングラスを着用しましょう。
Q.術後も通院はありますか?
手術の翌日、そして抜糸のために1週間後にお越し頂きます。
その後は各患者様の状態に応じた経過観察の対応となります。定期的に状態を確認し、必要があればケアを行います。
Q.術後からどれくらいで運動ができるようになりますか?
術後から48時間は腫れが強く、運動するとより腫れが強くなるため控えましょう。
48時間以上経過すれば、ウォーキングなど軽い運動ができるようになります。激しい運動は手術から1週間後に行う抜糸を終えてから可能です。
Q.眼瞼下垂は再発リスクがありますか?
再発する可能性はありますが、そのリスクは非常に低いです。
なお、加齢に伴って瞼の皮膚はたるむため、挙筋機能は問題なくとも皮膚のたるみにより、瞼が下がってしまうことがあります。
こういった場合は、たるんだ皮膚を取り除くことで改善可能です。
Q.白内障手術後に眼瞼下垂が起こる可能性はありますか?
近年、白内障手術と眼瞼下垂の関連性について様々な研究が行われています。研究によると、白内障・緑内障・硝子体の手術後に眼瞼下垂が起こることがあるとされています。
原因は、手術で使用する開瞼器により挙筋腱膜に刺激が加わることではないかと言われています。