
耳は皮脂腺が多いうえ、ピアスやイヤホン、マスク、眼鏡などによる刺激を日常的に受けやすい部位です。そのため、皮膚に繰り返し負担がかかることで粉瘤(表皮嚢腫)が生じることがあります。
初期には小さなしこりだけで痛みを伴わないことも珍しくありません。しかし、そのまま経過を見るうちに細菌感染を起こし、急激な腫れや強い痛み、膿の排出を伴う「炎症性粉瘤」へ進行するケースもあります。粉瘤は自然に消えることはほとんどなく、再発を防ぐには袋状の組織を手術で摘出することが必要です。
本ページでは、耳にできる粉瘤の特徴や原因、発生しやすい部位、他の疾患の見分け方などについて詳しく解説します。
耳たぶの粉瘤によく見られる症状
- 皮膚の下に丸く弾力のあるしこりを触れる
- 数mm程度から徐々に大きくなり、2cm以上になることもある
- 圧迫すると白色〜黄色のペースト状の内容物が出る場合がある
- 独特の臭いを伴うことがある
- 炎症を起こすと赤く腫れ、熱感や強い痛みが現れる
耳たぶの粉瘤を放置するリスク
粉瘤の内部に細菌が侵入すると炎症を起こし、赤みや腫れ、痛み、膿を伴い、症状が強くなると発熱を伴うこともあります。また、粉瘤が大きくなると皮膚が徐々に引き伸ばされて耳たぶの輪郭が変形する場合があります。さらに、炎症によって袋が破れると内容物が周囲の組織へ漏れ出して治療に時間を要することや、慢性的に膿が出続ける瘻孔を形成することもあります。
耳たぶの組織が変形したり傷跡が残ったりすると、将来的に希望する位置へピアスホールを作ることが難しくなる場合もあるので、早期の対応が重要です。
耳に粉瘤ができやすい部位とその原因
耳の周囲は皮脂腺が豊富で、さらに摩擦や圧迫などの刺激を受けやすいため、複数の部位で粉瘤が発生します。
ここでは、特に粉瘤が生じやすい場所と、それぞれに関係する主な原因をご紹介します。
耳たぶ・ピアスホール周辺
耳たぶは皮膚が柔らかく刺激を受けやすいため、粉瘤がよく見られる部位です。特にピアスホールの周囲では、穴を開けた際の小さな傷や金属による刺激、ケア不足などをきっかけに皮膚の一部が内部へ入り込み、袋状の構造が形成されることがあります。一度粉瘤ができると、表面上は小さく見えても皮下では袋が残っているため、繰り返し腫れたり化膿したりすることがあります。
ピアスの近くにしこりができる、臭いのある内容物が出るといった症状がある場合は、粉瘤の可能性を考えて受診しましょう。
耳の後ろ
耳の後ろは、マスクのゴムや眼鏡のつるが長時間触れるため、慢性的な摩擦が起こりやすい場所です。こうした刺激によって毛穴が詰まりやすくなり、皮膚の一部が皮下へ入り込むことで粉瘤が形成されます。
近年はマスクを装着する時間が長くなったこともあり、この部位に粉瘤が見られるケースが増えています。耳の後ろにしこりや違和感が続く場合は、早めに診察を受けることをお勧めします。
耳の付け根
耳と顔の境目にあたる耳の付け根も、粉瘤が発生しやすい部位です。皮脂腺が多いうえ、髪の毛や眼鏡、マスクなどが頻繁に接触するため、毛穴への刺激が繰り返されます。さらに洗顔や洗髪の際に皮脂や汚れが残りやすいことも、毛穴の閉塞や慢性的な炎症に繋がる要因となります。
皮膚のすぐ下にコリコリとしたしこりを感じる場合は、粉瘤の可能性があります。
耳の内側
耳介の窪みや耳甲介など耳の内側も、粉瘤が発生しやすい部位の1つです。この部分は通気性が悪く湿気がこもりやすいうえ、イヤホンや髪の毛などによる刺激も受けやすいため、毛穴が詰まりやすい環境にあります。その結果、皮膚の下に袋状の構造が形成され、徐々に粉瘤へと発展します。
耳の中のしこりや違和感、押した際の痛みなどが続く場合は、放置せず診察を受けることが大切です。炎症が進行すると耳介軟骨膜炎などを合併することもあります。
耳の軟骨部分
耳輪や対輪などの軟骨部にも粉瘤ができることがあります。頻度は高くありませんが、軟骨は血流が少ないため、一度炎症を起こすと治癒まで時間がかかりやすいという特徴があります。軟骨ピアスやヘッドホン、マスクなどによる圧迫や摩擦がきっかけとなり、毛包や皮脂腺が障害されて粉瘤が形成されることがあります。
見た目は小さくても内部では袋が大きくなっている場合があり、痛みや腫れを伴う場合は早めの治療が必要です。炎症が重症化すると軟骨膜炎や軟骨壊死などを引き起こす可能性もあるため、再発を繰り返すケースでは袋を完全に摘出する外科的治療が推奨されます。
耳のしこりは粉瘤とは限りません
耳の周囲には、粉瘤とよく似た外見や触り心地を示す病気が少なくありません。
ここでは、耳に生じる代表的なしこりについて、粉瘤との違いを中心に解説します。
耳下腺腫瘍(じかせんしゅよう)
耳の下から顎の後方にかけて触れるしこりは、唾液を作る耳下腺に生じた腫瘍の可能性があります。耳下腺は皮膚や皮下脂肪よりも深い位置にあるため、耳下腺腫瘍は表面近くにできる粉瘤と比べ、奥の方に弾力のある塊として触れる傾向があります。良性腫瘍が多く、初期には痛みなどの自覚症状がないケースも少なくありません。
一方、粉瘤は皮膚に近い位置にあり、中央の開口部や臭いを伴う内容物の排出が見られることがあります。
耳瘻孔(じろうこう)
耳の前方や耳の付け根に、生まれたときから小さな穴がある場合は、耳瘻孔が考えられます。これは胎児期に耳が形づくられる過程で、本来閉じる部分が完全に癒合せず、皮膚の下に細い管状の通り道が残った状態です。普段は特に症状がなくても、内部に角質や分泌物が溜まると、白い内容物が出たり、感染によって赤く腫れたりすることがあります。
粉瘤は後天的に形成された袋の中へ角質が蓄積する病変ですが、耳瘻孔は生まれつき存在する管状構造です。外見が似ることはあっても、成り立ちや内部の構造は異なります。
ニキビ
ニキビは、毛穴に皮脂や角質が詰まり、炎症を起こすことで生じます。耳の周囲でも、皮脂分泌や摩擦などの影響によって発生することがあります。赤みのある小さな膨らみや膿疱として現れることが多く、比較的浅い位置にあり、適切なスキンケアや治療によって改善する可能性があります。
これに対して粉瘤では、皮膚の下に袋状の構造が存在します。内部の袋が残る限り自然に消えることは少なく、徐々に大きくなったり、同じ場所で炎症を繰り返したりします。
ニキビと粉瘤の区別は必ずしも容易ではありませんが、長期間しこりが残る、繰り返し腫れる、臭いの強い内容物が出るといった場合は粉瘤が疑われます。
角栓
角栓は、毛穴の出口に皮脂や古い角質が固まって詰まった状態です。白い点や黒ずみとして見えることがあり、粉瘤の中央にある黒い開口部と似て見える場合があります。ただし、角栓は基本的に皮膚表面の毛穴に生じるもので、皮下に明確な袋やしこりを形成するものではありません。
粉瘤では黒い点の下に袋状の組織があり、角質が継続的に溜まります。表面の内容物が排出されても袋は残るため、再び膨らむ可能性があります。黒ずみだけでなく、皮膚の下に明らかなしこりを触れる場合は、単なる角栓ではない可能性があります。
脂肪腫
脂肪腫は、成熟した脂肪細胞が増えることで形成される良性の軟部腫瘍です。通常は皮膚の下に、柔らかく滑らかな塊として触れます。押すと動くことが多く、痛みや炎症を伴わないケースが一般的です。また、皮膚表面に開口部ができたり、臭いのある内容物が出たりすることはありません。
粉瘤も炎症がなければ痛みを伴わず、可動性のあるしこりとして触れるため、初期には脂肪腫との区別が難しいことがあります。
診察では、しこりの硬さや皮膚との繋がりを確認し、必要に応じて超音波検査などを行います。摘出した組織を病理検査に提出し、診断を確定する場合もあります。
リンパ節炎
耳の前後や顎の周囲にはリンパ節があり、近くで感染や炎症が起こると腫れることがあります。原因としては、中耳炎、扁桃炎、歯や歯茎の感染などが挙げられます。リンパ節炎では、皮膚より深い位置に硬めのしこりを触れ、押すと痛みを伴うことがあります。感染が強い場合には、発熱や倦怠感、赤み、熱感が現れることもあります。粉瘤のような黒い開口部や臭いを伴う内容物は通常見られません。また、炎症の原因となった病気が改善すると、腫れも徐々に小さくなることがあります。
治療は原因によって異なり、細菌感染が疑われる場合は抗菌薬が使用されます。膿瘍を形成した際には排膿処置が必要になることもあります。
乳様突起炎
耳の後ろに強い痛みや腫れがある場合には、乳様突起炎にも注意が必要です。乳様突起炎は、主に中耳炎の感染が耳の後ろにある乳様突起へ広がることで起こります。耳の後方が赤く腫れる、押すと強く痛む、発熱する、耳が外側へ押し出されたように見えるといった症状が現れることがあります。皮膚表面に粉瘤特有の開口部はなく、しこりも皮膚より深い骨の周囲に生じます。進行すると重篤な合併症に繋がる可能性があるため、耳の痛みや発熱を伴って耳の後ろが腫れている場合には、速やかに耳鼻咽喉科を受診する必要があります。
耳介偽嚢腫などの嚢胞性病変
耳のしこりには、粉瘤以外の嚢胞性病変もあります。嚢胞とは、内部に液体や粘液、ゼリー状の物質などが溜まった袋状の病変の総称です。代表例の1つである耳介偽嚢腫は、主に耳介の上部に腫れとして現れます。耳介軟骨内に液体が溜まる病変で、圧迫や摩擦などの刺激が発症に関係すると言われています。
粉瘤では袋の中に角質が溜まりますが、耳介偽嚢腫では液体に近い内容物が蓄積します。そのため、次のような違いが見られます。
- 皮膚表面に黒い開口部がない
- 臭いを伴う角質様の内容物が出ない
- 比較的柔らかく、波動を感じることがある
- 耳介の上部や軟骨部分に生じやすい
病変の場所や深さによっては、超音波検査やMRIなどを用いて内部の状態を確認することがあります。
耳に発生した粉瘤の治療
耳の粉瘤は良性の皮膚病変であり、痛みや腫れがなければ緊急性が高いとは限りません。ただし、皮膚の下に形成された袋が自然になくなることはほとんどなく、そのままにしていると徐々に大きくなったり、細菌感染によって急に炎症を起こしたりする可能性があります。
粉瘤の内部から角質などの内容物が排出されると、一時的にしこりが小さくなったように見えることがあります。しかし、原因となる袋が皮下に残っていれば、再び内容物が溜まります。そのため、再発をできるだけ防ぐには、外科手術によって袋状の組織を取り除くことが必要です。
粉瘤の摘出には、主に「切開法」と「くり抜き法」があります。どちらが適しているかは、粉瘤の大きさや位置、炎症の有無、皮膚との癒着、傷跡への配慮などを踏まえて判断します。
切開法
切開法は、粉瘤の周囲を切開し、内部の袋を確認しながら摘出する方法です。
袋をできるだけ破らずに取り除きやすく、再発のリスクを抑えられます。一方で、粉瘤の状態に応じた長さの切開が必要となるため、くり抜き法よりも傷跡が長くなることがあります。
くり抜き法
くり抜き法は、粉瘤の中央にある開口部付近へ円筒状の器具を当て、小さな穴を開けて内容物と袋を取り出す術式です。
切開範囲が数mm程度で済むことが多く、傷跡を小さく抑えやすい点が大きな特徴です。ただし、小さな開口部から袋を摘出するため、袋が周囲に癒着している場合や、炎症によって破れやすくなっている場合には、組織の一部が残る可能性があります。
治療費と期間
粉瘤の手術費用は、できものの大きさや発生部位、手術内容、健康保険の自己負担割合によって異なります。耳は通常、診療報酬上の「露出部」として扱われるため、体幹などの非露出部とは費用区分が異なる場合があります。3割負担の方では5,000~18,000円程度が目安となります。
治療期間については、炎症が落ち着いている粉瘤であれば、局所麻酔を使用した日帰り手術が可能なケースが多く、手術当日にご帰宅頂けます。ただし、症例によっては治療を複数回に分けることがあります。
耳の粉瘤に関するよくある質問
Q.粉瘤らしいしこりがある場所にピアスを開けてもよいですか?
A.しこりや腫れがある部位へのピアッシングは控えてください。炎症が悪化し、膿が溜まったり、粉瘤が大きくなったりするリスクがあります。
Q.耳の粉瘤は何科を受診すればよいですか?
A,耳たぶや耳の後ろなどにできた粉瘤は、形成外科や皮膚科が主な受診先です。特に手術による摘出や、傷跡に配慮した治療を希望する場合は、形成外科への相談が適しています。
Q.耳に粉瘤ができるリスクが高い人の特徴は?
A.次のような方は、耳の周囲に慢性的な刺激が加わりやすく、粉瘤が生じるきっかけになることがあります。
- ピアスホールの炎症を繰り返している
- マスクを長時間使用している
- イヤホンやヘッドホンを頻繁に装着する
- 皮脂が多く、毛穴が詰まりやすい
